東京高等裁判所 平成10年(行ケ)155号 判決 1999年3月11日
東京都北区王子1丁目4番1号
原告
日本製紙株式会社
代表者代表取締役
小林正夫
訴訟代理人弁理士
箕浦清
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
佐藤久容
同
伊藤元人
同
田中弘満
同
小池隆
主文
特許庁が平成8年異議第70849号について平成10年3月31日にした取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 請求
主文同旨の判決
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、発明の名称を「印刷および情報記録に用いられる小判断裁紙堆積体用包装紙」とする特許第2511753号発明(平成3年8月8日出願、平成8年4月16日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
田村和正は、平成8年12月27日、本件特許(請求項1ないし3に係る特許)につき特許異議の申立てをした。
特許庁は、この申立てを同年異議第70849号事件として審理し、平成9年5月19日原告から訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたが、平成10年3月31日、本件特許(請求項1ないし3に係る特許)を取り消す旨の決定をし、その謄本は、同年4月27日原告に送達された。
2 本件発明(請求項1ないし3に係る発明)の要旨
(1) 平成11年1月8日付け訂正審決(以下「本件訂正審決」という。)による訂正前の本件発明の要旨
<1> 請求項1
基紙の片方の面にポリプロピレン、スチレン・アクリル共重合体、エチレン・アクリル共重合体から選ばれた合成高分子を積層し、該合成高分子面が小判断裁紙に接する小判断裁紙堆積体用包装紙において、該合成高分子面と小判断裁紙表面とを圧力30g/cm2で24時間密着した時の該小判断裁紙表面の静摩擦係数の低下が0.15以下であり、該包装紙の24時間透湿度が40g/m2以下であることを特徴とする小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。
<2> 請求項2
該合成高分子面の厚みが15~25μmである請求項1の小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。
<3> 請求項3
基紙がクラフト紙、上質紙、中質紙のいずれかである請求項1または請求項2記載の小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。
(2) 本件訂正審決による訂正後の本件発明の要旨
<1> 請求項1
基紙の片方の面にエチレン・アクリル共重合体からなる合成高分子を積層し、該合成高分子面が小判断裁紙に接する小判断裁紙堆積体用包装紙において、該合成高分子面と小判断裁紙表面とを圧力30g/cm2で24時間密着した時の該小判断裁紙表面の静摩擦係数の低下が0.15以下であり、該包装紙の24時間透湿度が40g/m2以下であることを特徴とする小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。
<2> 請求項2
該合成高分子面の厚みが15~25μmである請求項1の小判断裁紙堆積用防湿性包装紙。
<3> 請求項3
基紙がクラフト紙、上質紙、中質紙のいずれかである請求項1または請求項2記載の小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。
3 取消決定の理由
取消決定の理由は、別紙特許異議の申立てについての決定書写し(以下「決定書」という。)に記載のとおりであって、本件発明(請求項1ないし3に係る発明)は、引用例1(特開平1-299037号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。
なお、取消決定は、平成9年9月2日付け手続補正書による本件訂正請求の請求書の補正は訂正請求書の要旨を変更するものであるからこれを採用することはできず、原告の当初の訂正請求である本件訂正請求は特許法120条の4第2項の規定に違反するものであるからこれを認めることはできないと判断した。
第3 取消決定の取消事由
1 原告は、平成10年10月23日付け審判請求書により、本件発明の特許請求の範囲の記載を含む明細書の記載の訂正を求める訂正審判の申立てをしたが、特許庁は、平成11年1月8日、その訂正を認める旨の審決(平成10年審判第39072号。本件訂正審決)をし、その謄本は、同年1月25日原告に送達された。
したがって、本件発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2、2(2)に記載のとおり訂正されたものである。
2 したがって、取消決定は、結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったものである。
そして、その誤りは取消決定の結論に影響するものである。
3 よって、取消決定は、違法なものとして取り消されるべきである。
第4 取消決定の取消事由に対する認否
取消決定の取消事由1の事実は認める。
理由
1 本件訂正審決により本件発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2、2(2)に記載のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば、取消決定は、結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったものである。
そして、上記要旨認定の誤りは取消決定の結論に影響するものと認められるから、原告主張の取消事由は理由がある。
2 よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年2月25日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
理由
1.手続の経緯
本件特許第2511753号は、平成3年8月8日に出願され、平成8年4月16日に設定登録されたものである。
これに対して、平成8年12月27日に特許異議申立人田村和正より特許異議の申立てがなされ、平成9年3月6日付で当審より取消理由を通知したところ、平成9年5月19日付で訂正請求がなされた。これに対して、平成9年6月16日付で当審より訂正拒絶理由を通知したところ、平成9年9月2日付で手続補正書が提出されたものである。
2.訂正及び補正の内容
(1)訂正について
上記平成9年5月19日付訂正請求の請求の趣旨は本件特許明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり次のように訂正することを求めるものである。
「(1)特許請求の範囲の減縮を目的として、特許明細書の特許請求の範囲に次の請求項4を追加する。
「【請求項4】基紙の片方の面にエチレン・アクリル共重合体からなる合成高分子を積層し、該合成高分子面が小判断裁紙に接する小判断裁紙堆積体用包装紙において、該合成高分子面と小判断裁紙表面とを圧力30g/cm2で24時間密着した時の該小判断裁紙表面の静摩擦係数の低下が0.15以下であり、該包装紙の24時間透湿度が40g/m2以下であることを特徴とする小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。」
(2)明瞭でない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の段落【0008】の末尾の「・・・0.15以上であった。」を「・・・0.15を超えていた」と訂正する。」
(2)補正について
上記平成9年9月2日付手続補正書による補正は、上記訂正請求の請求書を補正するものであり、その内容は上記訂正請求の請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のように補正するものである。
「【請求項1】基紙の片方の面にエチレン・アクリル共重合体からなる合成高分子を積層し、該合成高分子面が小判断裁紙に接する小判断裁紙堆積体用包装紙において、該合成高分子面と小判断裁紙表面とを圧力30g/cm2で24時間密着した時の該小判断裁紙表面の静摩擦係数の低下が0.15以下であり、該包装紙の24時間透湿度が40g/m2以下であることを特徴とする小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。」
なお、上記手続補正書には「補正の内容」の欄において上記請求項1の補正とともに発明の詳細な説明の段落【0008】を補正することが記載されているが、発明の詳細な説明の段落【0008】の補正の内容は上記訂正請求の訂正事項
(2)と全く同一の内容であるから、この補正は実質的に上記訂正請求の請求書を補正するものではない。
また、上記手続補正書の「補正の内容」の欄には請求項2乃至請求項4に関する記載はないが、請求項2及び請求項3は請求項1を引用する形式で記載されているから、請求項1を上記のように補正することに伴い必然的に請求項2及び請求項3は補正されることになる。また、上記手続補正書に添付された明細書をみると請求項4は削除されたものと認められる。
そして、この補正における請求項1は、訂正請求時の訂正明細書における請求項4と、この補正における請求項2及び請求項3は、訂正請求時の訂正明細書における請求項2及び請求項3と、それぞれ、同一の内容であり、しかもこの補正により請求項数が1つ減少していることから、実質的にこの補正は、訂正請求時の請求項4を請求項1に補正し、訂正請求時の請求項1を削除したものと認められる。
3.訂正及び補正の適否についての判断
(1)補正について
上記訂正請求の趣旨は、上記のとおり本件特許明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めること、すなわち、請求項4を追加し、発明の詳細な説明の段落【0008】を訂正するものであるのに対し、上記補正は、請求項1を補正し、さらにこの請求項1の補正に伴い請求項2及び請求項3を補正し、また、請求項4を削除するものである。
そこで、この補正の適否について検討すると、上記補正後の請求項1は上記訂正請求において追加しようとした請求項4と同一の内容であり補正の前後において変更はない。しかしながら、請求項2及び請求項3は請求項1を引用する形式で記載されているから補正後の請求項2及び請求項3は補正の前後において別異のものに変更されることになる。そして、このように請求項2及び請求項3を変更することは訂正請求の請求書及び添付された訂正明細書には何ら記載されておらず、誤記又は訂正事項の削除に相当するものではない。
したがって、この補正は上記訂正請求の趣旨を変更するもの、すなわち上記訂正請求の請求書の要旨を変更するものである。
よって、上記手続補正書による訂正請求の請求書の補正は特許法第120条の4で準用する特許法第131条第2項の規定に違反するものであるからこれを採用することはできない。
(2)訂正について
上記のとおり補正は採用することはできないから、特許法第120条の4で準用する特許法第131条の規定による訂正請求の趣旨、その理由及び訂正明細書は請求当初のものとなり、これに対する当審の判断は上記の訂正拒絶理由通知において指摘したとおり請求項4を追加することは特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、誤記の訂正を目的とするものでもなく、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないので、上記訂正請求は特許法第120条の4第2項の規定に違反するものでありこれを認めることはできない。
4.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記のとおり平成9年5月19日付訂正請求は認めることができないから、本件特許明細書は平成8年4月16日に設定登録された時点における特許明細書となる。
本件特許の請求項1、2及び3に係る各発明は、この特許明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、2及び3に記載された以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】基紙の片方の面にポリプロピレン、スチレン・アクリル共重合体、エチレン・アクリル共重合体から選ばれた合成高分子を積層し、該合成高分子面が小判断裁紙に接する小判断裁紙堆積体用包装紙において、該合成高分子面と小判断裁紙表面とを圧力30g/cm2で24時間密着した時の該小判断裁紙表面の静摩擦係数の低下が0.15以下であり、該包装紙の24時間透湿度が40g/m2以下であることを特徴とする小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。
【請求項2】該合成高分子面の厚みが15~25μmである請求項1の小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。
【請求項3】基紙がクラフト紙、上質紙、中質紙のいずれかである請求項1または請求項2記載の小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙。」
(2)引用例に記載された発明
当審が通知した取消理由において引用した引用例1(特開平1-299037号公報)には、電子写真複写機やプリンター等に用いられる転写用紙の冊を包装する防湿包装紙において、包装紙のコーティングされたフィルム面と接触する冊の最上面と最下面の転写用紙にフイルム面から低分子量物質が転移することによる転写用紙の摩擦係数の低下により冊間重送が発生すること、この冊間重送を防止するために、ポリプロピレン、ポリエチレン及びエチレンープロピレン共重合体より選択された少なくとも1種よりなり、メタノールによる低分子抽出量が0.1重量%以下のポリオレフィンフィルムを、シート基材の少なくとも片面に溶融押出しコーティング又は貼り合わせた用紙包装用複合シート材料を包装紙とすること、シート基材として、クラフト紙、上質紙を用いること、このような包装紙を用いることにより、転写用紙に転移する低分子量物質の量が低減し用紙表面の摩擦係数の変動が少なくなり、その結果、冊間重送が防止できること、実施例として例1~7を挙げ、作成した複合シート材料について、冊間界面の摩擦係数低下度、冊間界面重送発生率を測定したこと、特に例1として、クラフト紙に膜厚20μmのポリプロピレンをコーティングした複合シート材料を作成したこと、冊間界面の摩擦係数低下度の測定において、摩擦係数は、引張試験機を用い積み重ねられた用紙の上に両面粘着テープを加重240gで押圧し、引張り速度150mm/minで測定したこと、包装後の摩擦係数は複合シート材料で用紙(A4)の冊を包装し、84kgの加重を加えた状態で1か月保管した後測定したことが記載されており(第1頁右下欄第第5行~第2頁右下欄第6行、第3頁左上欄第15行~右上欄第4行、第3頁右下欄第15行~第4頁左上欄第15行、第4頁左下欄第17行~第5頁左上欄第10行)、第1表に例1の測定結果として冊間界面の摩擦係数低下度が0.02、0.03、0.05であることが記載されている。
(3)請求項1に係る発明について
引用例1に記載された発明は、請求項1に係る発明と同じく冊間重送の解決をその課題としており、しかも、この冊間重送が冊間の用紙表面の摩擦係数の低下に起因するものであることに着目してこの摩擦係数の低下を低減することにより冊間重送を防止しようとするものである点においても請求項1に係る発明と軌を同じくするものであるから、引用例1に記載の「摩擦係数」は請求項1に係る発明の「静摩擦係数」にほかならないものと認められる。
また、上記「シート基材」、「転写用紙」、
「用紙包装用複合シート材料」は、それぞれ本件請求項1に係る発明における「基紙」、「小判断裁紙」、「小判断裁紙堆積体用防湿性包装紙」に相当するものである。してみると、請求項1に係る発明と引用例1に記載された発明は、基紙の片方の面にポリプロピレンを積層し、該ポリプロピレン面が小判断裁紙に接する小判断裁紙堆積体用包装紙において、該ポリプロピレン面と小判断裁紙とを密着したときの静摩擦係数の低下を低減することにより冊間重走を防止しようとするものである点において一致し、次の点において相違しているものと認められる。
(イ)請求項1に係る発明が、ポリプロピレン面と小判断裁紙表面とを圧力30g/cm2で24時間密着した時の該小判断裁紙表面の静摩擦係数の低下が0.15以下であることを要件としているのに対し、引用例1に記載された発明では、メタノールによる低分子抽出量が0.1重量%以下のポリプロピレンフィルムを基紙にラミネートしたことを要件としている点
(ロ)請求項1に係る発明が、包装紙の24時間透湿度を40g/m2以下であるとしているのに対し、引用例1に記載された発明では、透湿度に関して特に限定していない点
相違点(イ)について検討すると、引用例1に記載された発明は請求項1に係る発明と同様にポリプロピレン面と小判断裁紙とを密着したときの静摩擦係数の低下を低減することにより冊間重走を防止しようとするものであるから、静摩擦係数の低下の原因となる低分子抽出量について規定する代わりに直接静摩擦係数の低下量について規定してもよいことは明らかである。そして、引用例1には実施例の例1として膜厚20μmのポリプロピレンをコーティングした包装紙のポリプロピレン面とA4の小判断裁紙表面とを84kgの加重を加えた状態で1か月保管した後の該小判断裁紙表面の静摩擦係数の低下量が0.02~0.05でありその場合の冊間重走の発生率が0%であることが示されている。A4の用紙の面積は約625cm2であるから84kgの加重を加えることは約134g/cm2の圧力を加えることに相当する。したがって、この実施例の例1では請求項1に係る発明の「圧力30g/cm2で24時間密着」という条件よりもより厳しい「圧力134g/cm2で1か月間密着」という条件を設定した上に、なおかつその低下量も請求項1に係る発明の0.15以下の0.02~0.05という数値が示されていることになるから、このような条件及び低下量を満たすものであれば請求項1に係る発明に規定されている条件及び低下量を満足するものであることは明らかである。(因みに、このことは引用例1に記載されている他のすべての例においても同様に成立している)
よって、この例1に基づいて静摩擦係数の低下量に関して請求項1に係る発明で規定している要件を満足する要件を採用することは当業者が容易になし得ることである。
次に、相違点(ロ)について検討すると、プリンタ等の用紙は紙の吸湿を防止するために高分子樹脂をラミネートした包装紙で包装することが一般的であり、引用例1の包装紙も高分子樹脂であるポリプロピレンをラミネートしているものであるから一定値以下の透湿度を有するものであることは明らかである。そして、その透湿度を決める主要なパラメータであるポリプロピレンの膜厚をみても、例1に示されたものは、本願の明細書において透湿度の観点から好ましいとされた15~20μmとほぼ等しい20μmという値であるから、請求項1に係る発明の包装紙とほぼ同程度の透湿度を有するものと推測される。
さらに、24時間透湿度が40g/m2以下という請求項1に係る発明の数値限定自体についても格別の臨界的意義を有する数値限定とは考えられない。すなわち、発明の詳細な説明には小判断裁紙の使用時における紙ぐせの関係から24時間透湿度が40g/m2以下であることが必要であるということは記載されているが、何故にこの「40g/m2以下」という数値範囲でなければならないのか、何らその数値範囲を選択した根拠については示されていない。しかも、プリンタ等の用紙は上記のように湿度を嫌うものである以上包装紙として極力透湿度が低いものが好ましいことは当然であるから、「40g/m2以下」の「以下」という条件もごく当然の条件にすぎない。
してみると、以上のことからみて、24時間透湿度が40g/m2以下という数値限定に格別の臨界的意義はなくしかも引用例1記載の包装紙も同程度の透湿度を有するものと推認されるから、この数値限定は当業者が必要に応じて適宜定めうる程度のことにすぎないといわざるをえない。
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項により特許を受けることができない。
(4)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明において限定された「合成高分子の厚みが15~25μmである」という点については上記(3)において指摘したように引用例1にポリプロピレンの膜厚を20μmとすることが記載されているから、請求項2に係る発明も引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2に係る特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(5)請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明において限定された「基紙がクラフト紙、上質紙、中質紙のいずれかである」という点については上記(3)において指摘したように引用例1に、シート基材としてクラフト紙、上質紙を用いることが記載されているから、請求項3に係る発明も引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3に係る特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(6)むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法等の一部を改正する法律(平成2年法律第30号)により改正された特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第4項及び第7項並びに第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年法律第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、上記のとおり決定する。